「狼たちの処刑台」他

bigsnapper2011-04-10

☆「ソーシャル・ネットワーク」THE SOCIAL NETWORK(10)〜新宿三丁目
市民ケーン」(そう言われているとは全く知らずに観た) の NERD 版。ちりちり頭の主人公が、ローズバッドちゃんへの全くミクロな想いだけであれだけマクロな事態を引き起こしてしまう辺りに、ちょいとヴォネガットを想う。「ゾディアック」と同じ筆使いであっという間に終わらせるのが凄いが、こうなるともう少しヴォリュームが欲しい。なんて野暮を言うくせに、ラストは大泣きだった。阿呆だねえ。



☆「ネスト」THE NEW DAUGHTER(09)〜池袋
「地下室の魔物」×「モンスター・パニック」+「わらの犬」少々という大穴的快作。演出、音が初期カーペンターっぽい、かも。肛門みたいな面した変態怪物のアナログ感も素敵である。ここ数年 Gold Circle Films が連発する恐怖映画群の中で一番の出来栄え。俺の青春、サマンサ・マティスも出ています。監督はスペインはパコ・プラサ&ハウマ・バラグエロ軍団の構成員、ルイス・アレハンドロ・ベルデホ。



☆「天下泰平」(55)〜阿佐ヶ谷
主演の三船敏郎然り、女の子にきゃあきゃあ言われている佐野周二の軽さ、左卜全の御怒りなど、役者のいつにない佇まいが面白い(とくに卜全。かみさん役、飯田蝶子との掛け合いが可笑しい)。その佐野に、三船、久慈あさみらの恋のベクトル/トライアングルが滅法楽しく、"すてきな片想い" 久慈あさみが三船の耳元にさっと唇を近づけて囁きかける瞬間、さらにそこへ堺左千夫がお茶ですよーとしゃしゃり出るタイミングなんてウキウキさせられる。そんな一方、手抜かりなく撮られた高架下での暴力場面が光る。 尚、後編にあたる「続 天下泰平」は全く帳尻合わせ程度のもんであった。監督/杉江敏男



☆「8時間の恐怖」(57)〜NFC
意識していただろうか、同年東宝製作の「三十六人の乗客」ってより「恐怖の報酬」発「弾丸特急ジェットバス」行なチャカチャカでスウィンギーなバス BUZZ 映画で、真っ当なサスペンスを期待すると肩透かしを食う、誠に清順なる一作(鈴木清太郎名義)。何はともあれ、「要塞警察」っぽい金子信雄は非常にナイス。あと残酷カニバサミに、二谷英明のミュージカルなひと時&ランジェリーな一瞬がこれ又ナイスです。助監督に武田一成。



☆「狼たちの処刑台」 HARRY BROWN(09・未)〜DVD
マイケル・ウィナーよりイーストウッド。それも「グラン・トリノ」じゃなくて「許されざる者」の線だろう。そこにニール・マーシャル以降の大英帝国暴力感覚と、ロン・シェルトン某作のクライマックスをぶっ込んだ感じ。終盤、元特殊部隊員だった主人公の脳裏にベルファストの悪夢が甦るってのが極めてえげれす的な妙味。フィックスで捉えた街の風景が良く、とくに地下道の段階を経た見せ方に作家の冴えを感じさせる。



☆「チャットルーム」CHATROOM(10)〜新宿三丁目
元になったのは、一昨年話題となった "Hunger"(09・未)の共同脚本家、エンダ・ウォルシュの舞台劇。思慮深く創られ、撮られたチャットルーム内のヴィジョン(撮影は俊英ブノワ・ドゥロム)はあくまで作り手側の視覚にしか過ぎず、そこに主人公らの居る現実世界を直接に侵す緊張関係など無いのだから、彼らがログアウトして現実に戻ったところで、何だか非常に白けるんだよな。要するに、主人公らは机上でちゃかちゃかキーボードを叩いた文字を読み合って一喜一憂しているだけで、フレディ・クルーガーや貞子に取り憑かれてしまう訳ではないのだ。他にも、他人の自殺願望に異常な興味を抱く主人公の体育会系、健康的な風体も逆を突いたとんちとは思えないし、挿入されるストップモーションアニメのセンスはかなり恥ずかしい。サーヴィスとは云え、随所に挟まれるリング的な場面には食傷気味の雰囲気が漂う。監督の中田秀夫本人がエロいチャットルームで女王様にぺこぺこ頭を下げて喜んでいる数秒間の画が一番面白かった。あと、現在のえげれすヤングスが揃った配役が見物っちゃあ見物なのだろう。一番目立つ娘を演るイモジェン・プーツは、この後、リメイク版「フライトナイト」のヒロインに抜擢された。



☆「キック・アス」KICK ASS(09)〜渋谷
この英国人監督って「レイヤー・ケーキ」でなく「スターダスト」を観れば解る様に、今時な暴力描写以上に捻った泣きこそが持ち味じゃなかろうか。今回ならニック・ケイジが「クリプトナーーイトッ!」と絶叫絶命する最中の英雄誕生劇で、ヒーローでなくヒロイン、それもヴァージン・クイーンが誕生してしまう件に、この作家の極めてえげれす的なへそ曲がりゆえの共感が在ったのではと妄想するのである。それにしてもぉ〜ここ最近、欧州の奇異な撮り手と組んで異質なアメリカ映画を産しているニック・ケイジが興味深い。対照的なのは、米国の野心的な撮り手と正統なアメリカ映画を実は作り続けているキャメロン・ディアスで(脚本コーエン兄弟+監督マイケル・ホフマンの新作とか選択眼良過ぎ!)、二人共ボックスオフィス的には既に微妙な位置に居るけれども、今の米国映画における二人の裏重要度は相当のもんだと思うよ。さて、今作でプチ敵を演じた人気の若手、クリス・ミンツ=プラッセの新作は、リメイク版「フライトナイト」の Evil Ed 役なんだってさ。


追伸:そのリメイク版「フライトナイト」(全米公開 ’11年8月)を監督した男にあの "Pride and Prejudice and Zombies" の御鉢が回ってきた模様。